春と呼ぶにはまだ早い季節のこと。
Sola cubeが私のおうちにたどり着いた。
淡い色彩の貼り箱の中に丁寧に敷き詰められていた。手にとると、ひんやりとした質感にほどよい重さ。箱から取り出して、寝室のテーブルに並べてみると、
窓から差し込むお日様の光に照らされて煌めいていた。
透明で包み込まれた桜の花はソメイヨシノ。
この子を窓辺に置きたくなったのは、太陽の当たる場所に花を置く習慣をほんの少しばかり引き継いでいるからなのかもしれない。
お部屋に花を飾るようになったのは私の中ではまだ記憶に新しい。
そとに向けていた視点のほとんどが
ここ数年でおうちと向き合う時間に変わっていった。
そんな中で生まれた習慣のひとつだ。
長く過ごす空間に向き合うことに夢中になり、時に散漫になることを繰り返していく過程で、時間を忘れてしまうこともしばしばあった。
そんな時、季節の感覚を外に落としてきてしまったことに私は気づいた。
一体あの時、私はどれだけのものを外に落としてきてしまったのだろうか。
拾われずに、今もまだそのままになってしまっているものもあるかもしれない。
街は静まり返っていた。
足早に歩いた花屋の帰り道。
外は冷たい風が吹きつけていたけれど、
花瓶に活けてささやかなお花見を楽しんだ春は心なしかあたたかく感じた。
忘れてしまいそうになる日々の中で、拾いに行った季節の感覚は今でも忘れない。
Sola cubeに閉じ込められた桜をみているとふとした時に思い出す。そして、当たり前のように享受していた日常を慈しむ気持ちが芽生えてくる。
「春になると桜が咲いて花びらが舞う。」
「夏になると蝉が鳴いて入道雲が見える。」
「秋になると紅葉が始まり金木犀の香りがする。」
「冬になると雪が降って空が澄む。」
月並みと思われても、それでいいしそれがいい。
特別なことは何もなくて、けれど、この毎日は何にも変え難く尊い時間だと深くうなずけるようになったことで、
暮らしの中に訪れる季節を取り込み、彩るのがよりいっそう楽しみになった。
ソメイヨシノは例年、3月から4月にかけて花を咲かせる。
まだ肌寒さを感じる1月の部屋の中で佇むSola cubeの桜は光をたっぷり取り込んで春を待っているかのようだ。
クリスマスやお正月の飾り付けのように、その時折々の花を並べて季節を迎えるのもいいかもしれない。
部屋の空気に溶け込むように、今日も窓際の光に照らされている。
開いた窓からは、冷たい風に混じって、ほんのわずかだけれど、春の気配が近くまで来ていた。
この記事に登場するキューブ
この記事を書いた人
tomei / 透明愛好家
2019年より透明愛好家として活動を開始。
透明に縁のあるものを集めたり、制作しながらSNSを拠点に透明の魅力を発信しています。
Xでは21万人、youtubeでは32万人のフォロワーがおり、影響力のあるクリエイターとして知られています。
著作に「世界一美しい透明スイーツ図鑑」(KADOKAWA)。